逆流性食道炎は、胸焼けや呑酸といった不快な症状を伴うだけでなく、放置すると様々な合併症を引き起こすリスクがあるため、適切な治療を受けることが重要です。胃酸が食道に繰り返し逆流し、食道の粘膜が慢性的に炎症にさらされると、食道の組織に変化が生じることがあります。まず、長期間の炎症によって食道の壁が厚くなったり、瘢痕(はんこん)が形成されたりすることで、食道の内腔が狭くなる「食道狭窄(しょくどうきょうさく)」が起こることがあります。食道狭窄が進行すると、食べ物がつかえやすくなったり、飲み込みにくくなったり(嚥下困難)、ひどい場合には食事が摂れなくなることもあります。次に、注意が必要な合併症として「バレット食道」があります。これは、食道の粘膜が胃の粘膜に似た円柱上皮という組織に置き換わってしまう状態です。バレット食道自体は必ずしも症状を引き起こすわけではありませんが、食道がん(特に腺がんというタイプ)の発生リスクを高める前がん状態と考えられています。バレット食道と診断された場合は、定期的な内視鏡検査による経過観察が重要となります。そして、最も深刻な合併症が「食道がん」です。逆流性食道炎が直接的に食道がんの原因となるわけではありませんが、慢性的な炎症やバレット食道は、食道がん(特に腺がん)のリスクを高める要因の一つとされています。特に欧米では、逆流性食道炎の増加に伴い、食道腺がんの発生も増加傾向にあります。その他にも、逆流した胃酸が気管に誤嚥(ごえん)されることで、慢性的な咳や喘息のような症状(気管支喘息の悪化)、あるいは肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こすこともあります。また、声帯に炎症が及べば、声がれ(嗄声)や喉の痛みの原因となることもあります(咽喉頭逆流症)。このように、逆流性食道炎を放置することは、単に不快な症状が続くだけでなく、生活の質を著しく低下させたり、時には生命に関わるような重篤な合併症に繋がったりする可能性があります。症状に気づいたら、自己判断せずに消化器内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが、これらのリスクを回避するために不可欠です。
逆流性食道炎を放置するリスクと合併症