猩紅熱は、かつては法定伝染病に指定され、ペニシリンなどの抗菌薬が普及する以前は、重症化しやすく死に至ることもある恐れられた病気でした。しかし、抗菌薬による効果的な治療法が確立され、衛生環境も改善した現代においては、典型的な重症型の猩紅熱の発生は大幅に減少し、「過去の病気」というイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、原因菌であるA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)自体は、依然として世界中で広く存在しており、子供を中心に咽頭炎などの感染症を引き起こし続けています。そして、溶連菌が産生する発疹毒に対する免疫を持たない人が感染すれば、現代でも猩紅熱を発症する可能性は十分にあります。実際、近年でも散発的な集団発生の報告や、一部地域での流行が見られることもあります。現代における注意点としては、まず、溶連菌感染症の症状(発熱、喉の痛み、発疹など)が見られた場合には、自己判断せずに速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。特に、猩紅熱特有の鮮やかな発疹やイチゴ舌、その後の皮膚の落屑などの症状に気づいたら、医師にその旨を伝えることが大切です。抗菌薬による治療は、症状の早期改善だけでなく、リウマチ熱や急性糸球体腎炎といった重篤な合併症を予防するためにも不可欠です。処方された抗菌薬は、症状が良くなっても自己判断で中断せず、必ず指示された期間飲み切るようにしましょう。また、溶連菌感染症は感染力が強いため、家庭内や学校・保育施設などでの集団感染にも注意が必要です。手洗いや咳エチケットなどの基本的な感染予防策を徹底するとともに、感染が確認された場合は、医師の指示に従って適切な期間、登園・登校を控えるなどの対応が求められます。ワクチンがない現状では、これらの地道な対策が感染拡大を防ぐ上で重要となります。猩紅熱は、確かにかつてほど恐ろしい病気ではなくなりましたが、原因菌である溶連菌は身近に存在し、依然として注意が必要な感染症であるという認識を持っておくことが大切です。