大人のADHDの治療は、単に症状を抑えるだけでなく、本人が抱える困難を軽減し、日常生活や社会生活をより円滑に送れるようになることを目指して行われます。治療の柱となるのは、「心理社会的治療(非薬物療法)」と「薬物療法」であり、これらを個々の状況に合わせて組み合わせて進められるのが一般的です。まず「心理社会的治療」としては、様々なアプローチがあります。「心理教育」では、ADHDの特性や対処法について正しい知識を学び、自己理解を深めます。「環境調整」では、職場や家庭環境を調整し、ADHDの特性による困難を軽減するための工夫(例えば、刺激の少ない環境を作る、タスク管理ツールを導入する、指示を明確にしてもらうなど)を行います。「認知行動療法(CBT)」は、不注意や衝動性に関連する思考パターンや行動パターンを見直し、より適応的なものに変えていくためのトレーニングです。時間管理、計画性、整理整頓などのスキルを身につけるのに役立ちます。その他にも、ソーシャルスキルトレーニング(SST)や、当事者グループへの参加なども、対人関係の改善や孤立感の軽減に繋がることがあります。次に「薬物療法」ですが、これはADHDの特性そのものを治すものではなく、不注意、多動性、衝動性といった中核症状を緩和し、心理社会的治療の効果を高めることを目的として用いられます。現在、成人のADHD治療薬として承認されているものには、中枢神経刺激薬(メチルフェニデート徐放錠、リスデキサンフェタミン)と非中枢神経刺激薬(アトモキセチン、グアンファシン徐放錠)があります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで、集中力や注意力を高めたり、衝動性を抑えたりする効果が期待できます。どの薬剤を選択するか、また用量はどの程度にするかは、医師が患者さんの症状や状態、副作用のリスクなどを考慮して慎重に判断します。薬物療法を開始する際には、効果や副作用について医師から十分な説明を受け、定期的な通院と医師の指示に従った服用が重要です。治療法は一人ひとり異なります。医師とよく相談し、自分に合った治療計画を立てていくことが大切です。