認知症の診療において中心的な役割を担う専門科として、精神科(神経科)と脳神経内科(神経内科)がありますが、それぞれのアプローチには若干の違いがあります。精神科は、心の病気全般を扱う診療科であり、認知症に伴って現れる行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の評価や治療を得意としています。BPSDには、不安、抑うつ、幻覚、妄想、興奮、攻撃性、徘徊、不眠、介護抵抗などが含まれ、これらは患者さん本人だけでなく、介護する家族にとっても大きな負担となることがあります。精神科医は、これらの症状に対して、薬物療法(抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠導入剤など)や環境調整、カウンセリングといった精神医学的なアプローチを用いて対応します。また、認知症の原因疾患の診断や、認知機能の評価も行いますが、特に症状が複雑であったり、精神症状が前面に出ている場合に強みを発揮します。一方、脳神経内科は、脳や脊髄、末梢神経、筋肉の病気を専門とする診療科です。認知症は脳の機能低下によって起こるため、脳神経内科では、認知症の原因となる脳の器質的な変化(アルツハイマー型認知症における脳萎縮やアミロイドβの蓄積、脳血管性認知症における脳梗塞や脳出血など)を画像検査(CT、MRIなど)や神経心理検査、血液検査などを駆使して詳細に評価し、原因疾患を特定することに重点を置いています。そして、その原因疾患に応じた治療(例えば、アルツハイマー型認知症に対する抗認知症薬の投与や、脳血管性認知症の再発予防など)を行います。認知機能障害の評価や、パーキンソン病に伴う認知症、レビー小体型認知症など、運動症状を伴う認知症の診断・治療にも専門性を発揮します。実際には、精神科と脳神経内科のどちらを受診しても、認知症の基本的な診断や治療は受けられますし、両科が連携して診療にあたることも少なくありません。どちらの科を選ぶかは、本人の症状の現れ方(精神症状が強いか、物忘れなどの認知機能低下が主かなど)や、医療機関の体制、かかりつけ医の勧めなどを参考にすると良いでしょう。
精神科と脳神経内科それぞれの認知症へのアプローチ