大人のADHDの特性を持つ人の中には、ADHDの症状だけでなく、他の精神疾患や発達障害を併存しているケースが少なくありません。これらの併存疾患の存在は、ADHDの症状の現れ方や日常生活への影響を複雑にし、治療アプローチにも影響を与えるため、正確な診断と適切な対応が重要となります。ADHDに併存しやすい精神疾患としては、まず「うつ病」や「双極性障害(躁うつ病)」といった気分障害が挙げられます。ADHDの特性による困難(仕事での失敗、対人関係のトラブル、自己肯定感の低下など)が慢性的なストレスとなり、うつ状態を引き起こしたり、気分の波を不安定にしたりすることがあります。また、「不安障害(全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害など)」も併存しやすい疾患です。常に何かに不安を感じたり、人前で過度に緊張したり、突然のパニック発作に襲われたりすることがあります。その他にも、「睡眠障害(不眠症、概日リズム睡眠障害など)」や、「物質使用障害(アルコールや薬物への依存)」、「パーソナリティ障害」などが併存する可能性も指摘されています。さらに、ADHDは他の発達障害、特に「自閉スペクトラム症(ASD)」と併存することがあります。ASDの特性(対人コミュニケーションの困難さ、特定のこだわり、感覚過敏など)がADHDの特性と重なり合って現れるため、診断や支援がより複雑になることがあります。これらの併存疾患がある場合、ADHDの治療と並行して、併存疾患に対する治療も行う必要があります。例えば、うつ病を併存していれば抗うつ薬が、不安障害を併存していれば抗不安薬や認知行動療法が検討されます。診療科としては、主に精神科がこれらの疾患を総合的に診療しますが、症状の特性や医療機関の体制によっては、心療内科や、より専門性の高い発達障害専門外来などが対応することもあります。重要なのは、ADHDだけでなく、併存する可能性のある他の疾患についても適切に評価し、必要に応じて複数の専門家が連携して、包括的な治療・支援計画を立てることです。これにより、患者さんの抱える困難をより効果的に軽減し、生活の質の向上を目指すことができます。
ADHDと併存しやすい精神疾患と診療科の連携