甲状腺機能低下症と診断された場合、その治療の基本は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補う「甲状腺ホルモン補充療法」です。この治療によって、低下していた全身の代謝を正常な状態に戻し、様々なつらい症状を改善し、QOL(生活の質)を向上させることを目指します。甲状腺ホルモン補充療法に用いられる薬剤は、主に「レボチロキシンナトリウム(商品名:チラーヂンS®など)」という合成の甲状腺ホルモン製剤です。これは、体内で作られる甲状腺ホルモン(T4:サイロキシン)と同じ成分であり、安全性が高く、副作用も少ないとされています。通常、一日一回、朝食前または就寝前などの空腹時に、少量の内服から開始します。そして、定期的に血液検査(甲状腺ホルモン値:FT4、甲状腺刺激ホルモン:TSHなど)を行い、甲状腺機能が正常範囲にコントロールされるように、医師が薬の量を徐々に調整していきます。適切な量が見つかれば、その量を継続して服用することになります。甲状腺ホルモン補充療法は、多くの場合、生涯にわたって続ける必要があります。自己判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりすると、甲状腺機能が再び低下し、症状が再燃したり、悪化したりする可能性があるため、必ず医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが大切です。薬の効果が現れるまでには、数週間から数ヶ月かかることが一般的です。焦らずに、医師とよく相談しながら治療を進めていきましょう。甲状腺ホルモン薬の副作用は、適切な量が投与されていればほとんどありませんが、まれに、薬の量が多い場合に、動悸や手の震え、多汗、体重減少、不眠、イライラ感といった甲状腺機能亢進症のような症状が現れることがあります。このような症状に気づいたら、速やかに医師に相談してください。また、他の薬(例えば、鉄剤やアルミニウム含有制酸薬、一部のコレステロール降下薬など)と一緒に服用すると、甲状腺ホルモン薬の吸収が悪くなることがあるため、服用中の薬がある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。
甲状腺機能低下症の治療法甲状腺ホルモン補充療法