側頭動脈炎の確定診断において、最も信頼性の高い検査とされているのが「側頭動脈生検(そくとうどうみゃくせいけん)」です。これは、側頭部を走行している側頭動脈の一部を外科的に採取し、その組織を顕微鏡で詳しく調べる病理組織検査のことです。側頭動脈炎に特徴的な炎症所見(例えば、血管壁の肥厚、内弾性板の断裂、単核球やリンパ球の浸潤、そして名前の由来ともなっている巨細胞の出現など)が確認されれば、確定診断となります。検査は通常、局所麻酔下で行われます。こめかみ付近の皮膚を数センチ切開し、皮下にある側頭動脈を露出させ、その一部(通常1~3cm程度)を採取します。採取した動脈の両端は結紮(糸で縛る)またはクリップで止血し、皮膚を縫合します。手術時間は30分から1時間程度で、日帰りで行われることもあれば、短期入院となることもあります。採取した組織は、病理検査室で処理され、数日から1週間程度で結果が出ます。側頭動脈生検は侵襲的な検査(体にメスを入れる検査)であるため、合併症のリスクもゼロではありません。出血、感染、神経損傷(顔面神経の枝を傷つけると眉毛が上がりにくくなるなど)、瘢痕(傷あと)などが起こる可能性がありますが、頻度はそれほど高くありません。しかし、この検査の最大の課題は、側頭動脈炎の病変が動脈の全長にわたって均一に存在するわけではなく、飛び飛びに(スキップリージョン)存在することがあるという点です。そのため、たまたま採取した部分に病変がなければ、実際には側頭動脈炎であっても生検結果が陰性(正常)と出てしまう「偽陰性」の可能性があります。偽陰性の確率を減らすために、比較的長めに動脈を採取したり、超音波検査などで炎症が強そうな部位を狙って採取したりする工夫がなされることもあります。それでも、臨床症状や血液検査所見から側頭動脈炎が強く疑われる場合には、生検結果が陰性であっても、総合的に判断して治療が開始されることもあります。近年では、超音波検査やMRI、PET-CTといった非侵襲的な画像検査の診断精度も向上しており、生検の代替あるいは補助としての役割が期待されていますが、依然として側頭動脈生検はゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)とされています。