ドラッグストアなどで手軽に購入できる「市販の睡眠改善薬」と、医療機関で医師の診断に基づいて処方される「睡眠薬(睡眠導入剤)」は、その成分や作用、対象となる症状が異なります。これらの違いを正しく理解しておくことは、不眠への適切な対処に繋がります。まず、市販の睡眠改善薬の多くは、「抗ヒスタミン薬」を主成分としています。抗ヒスタミン薬は、本来はアレルギー症状(鼻水、くしゃみ、かゆみなど)を抑える薬ですが、その副作用として眠気を催す作用があります。市販の睡眠改善薬は、この眠気を催す副作用を主作用として利用したものです。そのため、一時的な軽度の不眠症状(寝つきが悪い、眠りが浅いなど)に対して、睡眠リズムを整える補助として用いられるのが一般的です。効果は比較的穏やかで、依存性も低いとされていますが、効果の持続時間や強さには個人差があります。また、緑内障や前立腺肥大のある人など、使用に注意が必要な場合もあるため、購入時には薬剤師に相談することが推奨されます。一方、医療機関で処方される睡眠薬は、脳の中枢神経に作用し、より直接的に睡眠を促す効果を持つ薬剤です。前述の通り、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬など、様々な種類があり、医師が患者さんの不眠のタイプや原因、重症度、年齢、健康状態などを総合的に判断して、適切な薬剤を選択し処方します。これらの処方薬は、市販薬に比べて効果が強く、慢性的な不眠症や、精神疾患に伴う不眠など、より専門的な治療が必要な場合に用いられます。ただし、効果が強い分、副作用や依存性のリスクも市販薬よりは高くなるため、医師の厳格な管理のもとで使用する必要があります。市販の睡眠改善薬を2~3日試しても効果がない場合や、不眠が1週間以上続く場合、あるいは日常生活に支障が出るほどの強い不眠を感じる場合には、自己判断で市販薬を使い続けるのではなく、医療機関を受診し、医師に相談することが大切です。医師は、不眠の原因を特定し、必要であれば適切な睡眠薬を処方するだけでなく、睡眠衛生指導や認知行動療法といった非薬物療法も提案してくれます。
市販の睡眠改善薬と医療機関で処方される睡眠薬の違い