高齢化が進む現代において、高齢者特有の健康問題に総合的に対応する「老年科(老年病科)」の役割がますます重要になっています。認知症は高齢者に多く見られる疾患であり、老年科においても主要な診療対象の一つです。老年科が他の専門科と異なる特徴は、単に認知症という一つの疾患を診るだけでなく、高齢者の持つ複数の健康問題(ポリファーマシー:多剤併用、フレイル:虚弱、サルコペニア:筋肉量減少、栄養障害、転倒リスクなど)を総合的に評価し、全人的な視点からアプローチする点にあります。高齢者は、認知症以外にも高血圧、糖尿病、心臓病、骨粗鬆症など、複数の慢性疾患を抱えていることが少なくありません。これらの疾患や服用している多数の薬剤が、認知機能に影響を与えたり、認知症の症状を複雑にしたりすることがあります。老年科医は、これらの併存疾患や薬剤の相互作用を考慮しながら、認知症の診断と治療を進めます。例えば、ある薬剤の副作用でせん妄(意識障害の一種)が起こり、認知症と間違われるケースや、逆に認知症の症状によって他の疾患の管理が難しくなるケースなど、高齢者医療特有の複雑な問題に対応します。また、老年科では、認知機能だけでなく、日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)や手段的日常生活動作(IADL:Instrumental ADL)の評価も重視します。食事、排泄、入浴といった基本的なADLや、買い物、調理、服薬管理、金銭管理といったIADLがどの程度自立して行えるかを把握し、必要なリハビリテーションや介護サービスの導入を検討します。フレイルやサルコペニアの予防・改善のための運動指導や栄養指導も、認知機能の維持・向上に繋がる可能性があるため、積極的に行われます。さらに、老年科医は、患者さんの価値観や生活の質(QOL)を尊重し、終末期医療(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)に関する話し合いにも関わることがあります。認知症を抱える高齢者が、尊厳を保ちながらその人らしく生きることを支援するのが、老年科の目指すところです。
老年科(老年病科)における認知症へのアプローチ