高齢者の足のむくみの原因として、見逃されがちですが重要なものに「リンパ浮腫」があります。リンパ浮腫は、リンパ液の流れが滞ることによって、腕や足などの皮下組織にリンパ液が過剰に溜まってしまう状態で、放置すると進行し、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。リンパ系は、体内の老廃物や余分な水分、タンパク質などを回収し、排出するという重要な役割を担っています。しかし、何らかの原因でリンパ管が損傷したり、リンパ節が機能しなくなったりすると、リンパ液の流れが妨げられ、リンパ浮腫が発症します。高齢者の場合、リンパ浮腫の原因として考えられるのは、まず、がんの手術(特にリンパ節郭清)や放射線治療の後遺症です。乳がんや子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなどの治療を受けた後に、数ヶ月から数年経って発症することがあります。また、明らかな原因がなくても、加齢に伴うリンパ管の機能低下や、肥満、運動不足、長期間の不動などが、リンパの流れを悪化させ、リンパ浮腫を引き起こしやすくするとも言われています。さらに、繰り返す蜂窩織炎(皮膚の細菌感染症)や、心不全、腎不全といった他の病気が、リンパ系の機能に影響を与え、リンパ浮腫を悪化させることもあります。リンパ浮腫の初期の症状は、足のだるさや重さ、むくみ感など、他の原因によるむくみと区別がつきにくいことが多いです。しかし、進行すると、皮膚が硬く厚くなったり(線維化)、象の皮膚のようにゴワゴワとした状態(象皮病)になったり、細菌感染(蜂窩織炎)を繰り返しやすくなったりといった特徴的な症状が現れます。リンパ浮腫は、完治が難しい病気ですが、早期に発見し、圧迫療法(弾性ストッキングや弾性包帯の使用)、リンパドレナージ(専門的なマッサージ)、スキンケア、運動療法などを組み合わせた複合的治療を継続することで、症状の進行を抑え、QOLを維持することが可能です。もし、原因不明の足のむくみが続く、あるいは徐々に悪化する、皮膚が硬くなってきたといった場合は、リンパ浮腫の可能性も考え、リンパ浮腫専門外来や、血管外科、形成外科など、リンパ浮腫の診療を行っている医療機関に相談してみましょう。
リンパ浮腫の可能性も高齢者の足のむくみ