おたふく風邪(流行性耳下腺炎)は、子どもの頃にかかれば比較的軽症で済むことが多いですが、大人がかかると症状が重くなったり、様々な合併症を引き起こしたりするリスクが高まるため、注意が必要です。どのような合併症があり、なぜ大人の方が重症化しやすいのでしょうか。大人がおたふく風邪にかかった場合の代表的な合併症としては、まず「無菌性髄膜炎」が挙げられます。これは、脳や脊髄を覆う髄膜にウイルスが侵入し、炎症を起こす病気です。高熱、激しい頭痛、嘔吐、首の後ろが硬くなる(項部硬直)といった症状が現れます。多くは後遺症なく治癒しますが、入院治療が必要となることもあります。次に、思春期以降の男性に起こりやすいのが「精巣炎(睾丸炎)」です。耳下腺の腫れが始まってから数日後に、片側または両側の精巣が赤く腫れ上がり、高熱と激しい痛みを伴います。精巣炎の約3分の1程度で精巣の萎縮が起こり、稀に男性不妊の原因となる可能性も指摘されています。女性の場合は、「卵巣炎」が起こることがありますが、精巣炎ほど頻度は高くなく、不妊との関連も明確ではありません。また、「膵炎」も、おたふく風邪の合併症として起こることがあります。上腹部の激しい痛みや吐き気、嘔吐といった症状が現れ、入院治療が必要となることがあります。そして、永続的な後遺症として最も深刻なものの一つが「難聴(ムンプス難聴)」です。多くは片側の耳に、高度な感音難聴が突然現れます。残念ながら、現在のところ有効な治療法はなく、聴力が回復しないことが多いと言われています。その他、稀ではありますが、脳炎や心筋炎、腎炎、関節炎といった合併症も報告されています。大人がおたふく風邪にかかると、これらの合併症のリスクが子どもよりも高くなるのは、免疫反応の違いや、ウイルスの標的となる臓器の感受性の違いなどが影響していると考えられています。