片方の顎に痛みを感じ始めた時、「そのうち治るだろう」と安易に考え、放置してしまう人もいるかもしれません。しかし、顎の痛みを放置することには様々なリスクが伴います。原因が顎関節症であった場合、初期の段階であれば比較的簡単な治療で改善することが多いですが、放置して慢性化させてしまうと、治療が長引いたり、より複雑な治療が必要になったりする可能性があります。例えば、顎関節の内部にある関節円板というクッションのような組織がずれたまま固まってしまうと、口が開きにくくなる「クローズドロック」という状態になり、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。また、持続的な痛みはストレスとなり、睡眠障害や集中力の低下、さらにはうつ状態を引き起こすことも考えられます。痛みをかばうために不自然な噛み方を続けることで、他の歯や歯周組織に負担がかかったり、顔の歪みが生じたりする可能性も否定できません。食事や会話といった基本的な日常生活動作に支障が出ると、生活の質(QOL)も著しく低下します。では、医療機関を受診するまでの間、少しでも痛みを和らげるためにできる応急処置にはどのようなものがあるでしょうか。まず、顎に負担をかけないように心がけることが大切です。硬いものや大きなものを食べるのを避け、柔らかく消化の良い食事を選びましょう。ガムを噛む、頬杖をつく、うつ伏せで寝るといった習慣も顎関節に負担をかけるため控えます。大きく口を開ける動作(あくびや歌唱など)も慎重に行いましょう。痛む部分を冷やすか温めるかは、症状によって異なります。急性の炎症で熱感がある場合は冷やすのが効果的ですが、筋肉の緊張やこわばりが原因の場合は温めることで血行が促進され、痛みが和らぐことがあります。どちらが良いか迷う場合は、心地よいと感じる方を選んでみてください。市販の消炎鎮痛剤を服用するのも一時的な痛みの緩和には役立ちますが、あくまで対症療法であり、根本的な解決にはなりません。これらのセルフケアは、症状を悪化させないための一時的な手段であり、自己判断で長期間続けるのではなく、できるだけ早く専門医の診察を受け、正確な診断と適切な治療を受けることが最も重要です。
顎の痛みを放置するとどうなる?受診までの応急処置