溶連菌感染症(猩紅熱を含む)の治療において、抗菌薬を確実に服用することが強調されるのは、治療が不完全だと深刻な合併症を引き起こすリスクがあるからです。代表的な合併症として、「リウマチ熱」と「急性糸球体腎炎(溶連菌感染後急性糸球体腎炎)」の二つが挙げられます。これらは、溶連菌そのものが直接臓器を攻撃するのではなく、溶連菌感染に対する体の免疫反応が、誤って自身の組織(心臓、関節、脳、皮膚、腎臓など)を攻撃してしまうことによって起こると考えられています(自己免疫疾患様の機序)。「リウマチ熱」は、溶連菌感染後2~4週間程度経ってから発症することが多く、主な症状としては、発熱、複数の関節の移動性の痛みや腫れ(多発性関節炎)、心臓の炎症(心炎:心臓弁膜症の原因となることがある)、不随意運動(舞踏病)、皮下結節、輪状紅斑などがあります。心炎は特に重要で、心臓弁に障害を残し、将来的に心不全などの原因となる可能性があるため、早期発見と適切な管理が必要です。リウマチ熱の予防には、溶連菌感染症の早期診断と、適切な抗菌薬による十分な期間の治療が最も効果的です。一度リウマチ熱を発症すると、再発予防のために長期間(数年から生涯にわたって)抗菌薬を予防的に服用する必要が生じることもあります。「急性糸球体腎炎」は、溶連菌感染後1~3週間程度で発症することが多く、腎臓の糸球体という血液をろ過する部分に炎症が起こる病気です。主な症状は、血尿(コーラ色や紅茶色の尿)、蛋白尿、むくみ(特に顔や下肢)、高血圧、尿量減少などです。多くは自然に治癒しますが、一部では腎機能障害が持続したり、慢性腎炎に移行したりすることもあります。急性糸球体腎炎の治療は、安静、食事療法(塩分・水分・タンパク質の制限など)、血圧管理などが中心となります。この合併症も、溶連菌感染症の適切な抗菌薬治療によって発生頻度を減らすことができるとされています。これらの重篤な合併症を防ぐためにも、溶連菌感染症と診断されたら、医師の指示通りに抗菌薬を最後まで飲みきることが非常に重要です。