味覚障害の様々な原因の中で、特に注目されているのが「亜鉛不足」です。亜鉛は、私たちの体にとって不可欠なミネラルの一つであり、味覚機能の維持において非常に重要な役割を担っています。なぜ亜鉛が不足すると味覚障害が起こるのでしょうか。亜鉛は、舌の上にある味を感じる細胞である「味蕾(みらい)」の形成と、その新陳代謝(細胞の生まれ変わり)に深く関わっています。味蕾の細胞は、約10日間という比較的短いサイクルで新しい細胞に入れ替わっていますが、この細胞分裂と再生には亜鉛が必須です。そのため、体内の亜鉛が不足すると、味蕾の細胞が正常に作られなくなったり、数が減少したりして、味覚を感じる能力が低下してしまうのです。また、亜鉛は、味覚情報を脳に伝える神経伝達物質の働きや、味覚受容体(味を感じ取るセンサー)の機能にも関与していると考えられています。亜鉛不足に陥る原因としては、まず、食事からの摂取不足が挙げられます。偏った食生活や無理なダイエット、あるいは加工食品の摂りすぎなどは、亜鉛の摂取量を低下させる可能性があります。亜鉛は、牡蠣やレバー、赤身の肉、卵、大豆製品、ナッツ類などに比較的多く含まれています。また、高齢になると、食事量の減少や、消化吸収能力の低下によって、亜鉛が不足しやすくなる傾向があります。さらに、特定の薬剤(例えば、一部の降圧薬や利尿薬、抗生物質、キレート剤など)の長期服用や、糖尿病や腎臓病、肝臓病といった慢性疾患、あるいは炎症性腸疾患などの消化器疾患も、亜鉛の吸収を妨げたり、体外への排泄を促進したりして、亜鉛欠乏を引き起こすことがあります。アルコールの過剰摂取も、亜鉛の吸収を阻害し、尿中への排泄を増やすため注意が必要です。もし、原因不明の味覚障害があり、血液検査などで亜鉛欠乏が確認された場合は、亜鉛製剤の補充療法が行われます。同時に、亜鉛を多く含む食品を意識して摂取するなど、食生活の見直しも重要になります。
亜鉛不足が原因?味覚障害と栄養の関係